弱いゴールドバッハ予想

弱いゴールドバッハ予想(よわいゴールドバッハよそう、英語:Goldbach's weak conjecture)とはゴールドバッハの予想に類似した素数に関する数論予想。次のように表現される。

5 より大きい奇数は 3 個の素数の和で表せる。

3 個の素数は同じ数であってもよい。

ゴールドバッハ予想が証明できれば弱いゴールドバッハ予想も証明できる(後述)。しかし弱いゴールドバッハ予想が証明できても(それだけでは)ゴールドバッハ予想は証明できない。ゴールドバッハ予想からこの予想は導かれるが、その逆はないので「弱い」という語を冠している。

大きな奇数ほどその数よりも小さな素数がより多く存在し、それらの組み合わせもより多くなるので、この予想は多くの数学者によって正しいと考えられている。

2013年ハラルド・ヘルフゴットは弱いゴールドバッハ予想を証明したとする論文を発表した[1][2]

概要

小さな奇数を順に 3 個の素数の和で表すと以下のようになる。

  • 7 = 2 + 2 + 3
  • 9 = 2 + 2 + 5 = 3 + 3 + 3
  • 11 = 2 + 2 + 7 = 3 + 3 + 5
  • 13 = 3 + 3 + 7 = 3 + 5 + 5
  • 15 = 2 + 2 + 11 = 3 + 5 + 7 = 5 + 5 + 5
  • 17 = 2 + 2 + 13 = 3 + 3 + 11 = 5 + 5 + 7
  • 19 = 3 + 3 + 13 = 3 + 5 + 11 = 5 + 7 + 7
  • 21 = 2 + 2 + 17 = 3 + 5 + 13 = 5 + 5 + 11 = 7 + 7 + 7
  • 23 = 2 + 2 + 19 = 3 + 3 + 17 = 5 + 5 + 13 = 5 + 7 + 11

3 個の素数の和は 6 以上なので、5 以下の奇数を 3 個の素数の和で表すことはできない。また 3 個の奇素数の和は 9 以上なので、7 は 3 個の奇素数の和で表すことはできない。

「7 より大きい奇数は 3 個の奇素数の和で表せる」という予想もある。これはゴールドバッハ予想の「4 より大きい偶数は 2 個の奇素数の和で表せる」という命題と類似している。

3 個の素数のうち偶数の素数である 2 は 2 個か 0 個であり、残りの 1 個もしくは 3 個全てが奇素数である。

7 以上の奇数が n を 自然数、p を奇素数として

2 n 1 = 2 + 2 + p {\displaystyle 2n-1=2+2+p}

と 3 個の素数の和として表せるならば、その次の奇数も

2 n + 1 = 3 + 3 + p {\displaystyle 2n+1=3+3+p}

と 3 個の素数の和として表せる。

「5より大きい奇数は 1 個の奇素数と 2 個の同じ素数の和で表せる」という予想(Lemoine予想)もある。つまり 7 = 3 + (2 × 2) , 9 = 3 + (2 × 3) , 11 = 5 + (2 × 3) などのように

2 n + 1 = p + 2 q {\displaystyle 2n+1=p+2q}   (p , q は素数)

と表せるという予想である。

ゴールドバッハ予想との関係

ゴールドバッハ予想が正しいと仮定すると以下の命題が成り立つ。

4 以上の偶数は 2 個の素数の和で表せる。

したがって自然数を n とおくと、n 番目の正の偶数について

2 n = p 1 + p 2 n > 1 {\displaystyle 2n=p_{1}+p_{2}\qquad n>1}

を満たす素数 p1 , p2 が必ず存在することになる。ここから n+2 番目の正の奇数は

2 ( n + 2 ) 1 = p 1 + p 2 + 3 n > 1 {\displaystyle 2(n+2)-1=p_{1}+p_{2}+3\qquad n>1}

と 3 個の素数の和で表せるので、弱いゴールドバッハ予想も正しい。

逆に弱いゴールドバッハ予想が正しいと仮定すると n 番目の正の奇数について

2 n 1 = p 1 + p 2 + p 3 n > 3 {\displaystyle 2n-1=p_{1}+p_{2}+p_{3}\qquad n>3}

を満たす素数 p1 , p2 , p3 が必ず存在することになる。ここから n 番目の正の偶数は

2 n = p 1 + ( p 2 + p 3 + 1 ) n > 3 {\displaystyle 2n=p_{1}+(p_{2}+p_{3}+1)\qquad n>3}

と表せるが、 p2 + p3 + 1 は素数とは限らないので(p2 = 3 , p3 = 5 の場合など)''強い'' ゴールドバッハ予想は証明できない。

これらのことから、弱いゴールドバッハ予想は''強い'' ゴールドバッハ予想の系であるといえる。

2 n 1 = p 1 + p 2 + p 3 n > 3 {\displaystyle 2n-1=p_{1}+p_{2}+p_{3}\qquad n>3}

ならば

2 ( n + 1 ) = p 1 + p 2 + p 3 + 3 n > 3 {\displaystyle 2(n+1)=p_{1}+p_{2}+p_{3}+3\qquad n>3}

であるので、この予想が正しければ 8 より大きい偶数は 4 個の素数の和で表せることになる。また、8 も 8 = 2 + 2 + 2 + 2 と 4 個の素数の和で表せるので、弱いゴールドバッハ予想が正しければ 7 以上の自然数は 3 個か 4 個の素数の和で表せる。これは「弱いゴールドバッハ予想が正しければ 4 以上の自然数は高々 4 個の素数の和で表せる」と言いかえることもできる。なお、ゴールドバッハ予想については同様に「ゴールドバッハ予想が正しければ 4 以上の自然数は高々 3 個の素数の和で表せる」といえる。

現在までの成果

ゴールドバッハの予想#現在までの主な進歩も参照。
  • 1923年ゴッドフレイ・H・ハーディジョン・E・リトルウッドが、一般化されたリーマン予想を仮定すると、弱いゴールドバッハ予想が十分大きな奇数について成り立つことを示した。
  • 1937年、ヴィノグラードフは、一般化されたリーマン予想によらずに、弱いゴールドバッハ予想が十分大きな奇数について成り立つことを示した。(ヴィノグラードフの定理参照)
  • 1956年、ヴィノグラードフの教え子であるK. Borozdinは 3 3 15 {\displaystyle 3^{3^{15}}\,} が「十分大きな奇数」の下限であることを示した。これは十進法表記で 684万6169 桁の数である。
  • 1995年オリヴィエ・ラマレは全ての 5 以上の奇数は高々 7 個の素数の和で表せることを示した。
  • 1997年、Deshouillers 、Effinger 、te Riele 、Zinoviev は一般化されたリーマン予想を仮定すると、弱いゴールドバッハ予想が全ての奇数について成り立つことを証明した[3]
  • 2002年、廖明哲と王天沢は e 3100 2 × 10 1346 {\displaystyle e^{3100}\approx 2\times 10^{1346}} より大きい奇数については弱いゴールドバッハ予想が成り立つことを証明した。
  • 2012年テレンス・タオは全ての 3 以上の奇数は高々 5 個の素数の和で表せることを証明した[4]
  • 2013年ハラルド・ヘルフゴットは弱いゴールドバッハ予想を無条件で証明したと主張する論文を発表した[1][2]

脚注

  1. ^ a b Helfgott, H.A. (2013). "Major arcs for Goldbach's theorem". arXiv:1305.2897 [math.NT]。
  2. ^ a b Helfgott, H.A. (2012). "Minor arcs for Goldbach's problem". arXiv:1205.5252 [math.NT]。
  3. ^ Deshouillers, J.-M.; Effinger, G.; te Riele, H. & Zinoviev, D. (1997), “A complete Vinogradov 3-primes theorem under the Riemann hypothesis”, Electron. Res. Announc. Amer. Math. Soc. 3: 99–104, doi:10.1090/S1079-6762-97-00031-0, http://www.ams.org/era/1997-03-15/S1079-6762-97-00031-0/S1079-6762-97-00031-0.pdf 
  4. ^ Tao, Terence (2012). "Every odd number greater than 1 is the sum of at most five primes". arXiv:1201.6656v4 [math.NT]。

関連項目